脳内ARって

多才な能楽師である安田登が「うたで読む日本のすごい古典:安田登:講談社」で、和歌の素晴らしさを語っている。和歌はミュージカルにおける歌のような存在で、何度か読み、うたってみて、和歌を「体に染み込ませ」ていくと、それまで無味乾燥だと感じていた古典文学が、彩り豊かなキラキラとした世界に変わりうると言う。中でも面白いと感じたのが「枕詞」についての記載だ。枕詞を脳内ARと呼んでいるという。拡張現実ARとは、現実の風景の上にバーチャルなものを重ねて見るような技術を指す。つまり、枕詞を聴くだけで、情景が脳内に浮かび上がる。例えば、枕詞「久方の」と謡い出すと、そこに「空」や、そらに浮かぶ「月」や「天女」などが出現する。その中から、たとえば「天女」をバーチャルな手でつかんで自分の中に入れる。そうすると「天つ少女の羽衣なれや」という謡が出てくるという。算盤を習った人が暗算するとき、空中にバーチャルな算盤を置いて暗算をするのも脳内ARなのだ。枕詞をウィキペディアで調べると、何と200以上もあるのだ。せめて2~3は、使い熟せるようにしたものだと思う。