新聞社の責務とは何なのだろうか。基本は真実を正しく伝えることだと思う。更に、単に客観的報道をするだけでなく、問題を解決するための事実を集め、読者に問い促す課題解決型報道こそ、新聞社の責務の極致だと思う。そんな例がある。富士川を長期取材した静岡新聞だ。事の発端はサクラエビ漁の異変だ。1960年代の最盛期には年間7000トン超、2000年でも2000トン超だった漁獲が、2018年以降100~300トンに落ち込んだ。温暖化の影響では説明がつかない。まずは富士川の上流で問題になっている堆砂問題から始まった。国策民営会社の日軽金の雨畑ダムの管理不良で、総貯水量以上の土砂が堆積し、雨畑地区で浸水被害が起きた。でも国交省は問題を先延ばしした。更に日軽金の子会社はダムの堆積土砂を使って砕石製造を行っていたが、砕石後に出てくる濁水に凝集剤を混ぜた汚泥を富士川に垂れ流ししていた。この投棄とアユとサクラエビの不漁の時期が一致していた。しかし、山梨県は業者に対して行政指導のみで刑事告発をしなかった。富士宮市議会と富士市議会が国と県に河川環境の改善を求める住民の請願を採択し、不法投棄が止んだ3年後にアユとサクラエビが戻り始めた。更に日軽金が過去35年間にわたり大幅な不正取水を行なっていたことが判明。結局80年間も続けられた不正行為が、静岡新聞の取材・公表で断ち切られたのだ。静岡新聞の「川は誰のものか」「海は誰のものか」の切り込みが、サクラエビ漁を復活させたと言える。まさに課題解決型報道の手本なのだ。
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