今年のノーベル化学賞は「ゲノム編集」を開発した米カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授と、仏出身で独マックスプランク感染生物学研究所のエマニュエル・シャルパンティエ所長に決まった。遺伝子を改変する技術は20世紀後半から様々な手法が存在していたが手間や時間がかかり、改変の自由度も低かった。2012年に開発された「クリスパー・キャス9」で生物のDNAを狙った場所で切断出来るようになった。従来より簡単で精度も高く、生命科学の研究に欠かせない実験手法になった。使い勝手のよいクリスパー・キャス9は農水産物の品種改良で成果をあげている。近畿大と京都大は筋肉量が多いマダイを開発した。筑波大の江面浩教授は血圧の上昇を抑える効果のある物質が多いトマトを作った。ゲノム編集技術は画期的ではあるが、ヒトに適用するには安全性が確立されていない未成熟な技術でもある。将来的にはゲノム編集は遺伝性の病気の根本的な治療法になるとの期待は大きい。驚くことに、このゲノム編集開発の裏には日本の研究者がいる。中田篤男大阪大名誉教授と石野良純九州大教授だ。大腸菌の内部で、特定の酵素をつくる遺伝子を突き止める研究に取り組んでいた時、同じ塩基配列が繰り返す部分があることに気づいた。でも研究のメインテーマでは無かったため論文では「生物学的な意味がまったくわからない」と締め括ったという。後日この繰り返し塩基配列がクリスパーと呼ばれ、細菌は侵入してきたウイルスのDNAを切り取り、クリスパーに取り組み記憶し、再びウイルスが侵入した際、記憶と一致すると、ウイルスのDNAを攻撃するという仕組みが解明された。シャルパンティエ氏とダウドナ氏は、この仕組みを人間や動植物の狙ったDNAを切断する技術に応用し「クリスパー・キャス9」の技術を確立したという次第。クリスパー・キャス9を開発した2氏は凄いが、その種を見つけた2氏も凄い。ノーベル援助賞なるものも創設しても良いのではないかと思う。目出度し、目出度し。
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