子供の頃、右利きの兄からお前は左利きだから劣性遺伝だとからかわれたことがある。子供ながらに、劣性という言葉に心を傷つけられた。元凶はメンデルの法則だ。ある遺伝子の二つの型のうち、特徴が現れやすい遺伝子を意味するdominantに「優性」、現れにくい遺伝子を意味するrecessiveに「劣性」という訳語が当てられた。dominantは主要なという意味だから、英語は当を得ているが、日本語の優性はニュアンスが違う。血液型Aは優性だが、A型が優れている訳ではない。多いだけだ。この度、遺伝学会が「優性」を「顕性」に、「劣性」を「潜性」に改めると発表した。語感から来る誤解を招かないためには良い改正だと思う。学会はこの他にも100以上の遺伝学用語を見直している。例えば「突然変異」は原語mutationに「突然」という意味が含まれないため「変異」に、また「変異」と訳されてきたvariationは「多様性」と改められた。学術用語は一度決まるとなかなか変えられない性質のものだが、遺伝学会は善くぞ決断したものだと感心した。今後は、左利き、一重まぶた、左巻きつむじなどで劣性だ、劣っているといじめられる子もいなくなるに違いない。
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